(一社)四国ツーリズム創造機構 事業推進本部長 桑村琢さん インタビュー
2026年4月、(一社)四国ツーリズム創造機構(以下「機構」)事業推進本部長の桑村琢さんに、四国における持続可能な観光の取り組みについてお話を伺いました。
(四国における持続可能な観光への取り組みのきっかけと機構の役割)
2020年2月に機構に着任したが、全国で持続可能な観光に対する機運が高まりつつある中で、四国においては一部を除いてその取り組みがまだ少なく危機感を抱いた。一方で、持続可能な観光への取り組みが、四国ブランドを確立するための有力な手段となる可能性を感じた。四国は各県ごとのイメージはあるものの、四国全体としての明確な印象がなく、全国に先駆けて「持続可能な観光=四国」というイメージを打ち出すことができれば、環境問題への意識が高い欧州市場へのPRにもなり、国内やアジアからの教育旅行の候補地になるのではないかと考えた。
そのため、四国中を回り、持続可能な観光について議論を交わし、勉強会を何度も主催した。最初に取り組みが始まったのが香川県小豆島町。観光事業者3社と機構で町長に「町が先頭に立って持続可能な観光に取り組むべき」と申し上げたところ、ご賛同いただき、町の観光課を中心に地域おこし協力隊にも協力いただきながら、進んでいくことになった。その結果、2021年にGreen Destinations Top 100に四国で初めて選ばれた。並行して、愛媛県大洲市やSDGs未来都市のような有望な自治体を中心に、一つ一つ首長や観光関連部署に説明、奨励していったところ、2022年には小豆島町(2年連続)、大洲市が選ばれ、大洲市は翌年のITBベルリンで文化・伝統部門で世界1位の表彰を受けた。その後、2023年に大洲市(2年連続)、香川県丸亀市、徳島県三好市、2025年に丸亀市(2年連続)、香川県三豊市、高知県黒潮町と続き、丸亀市は2026年のITBベルリンでビジネス&マーケティング部門で世界2位の表彰を受けた。さらに、小豆島(土庄町と小豆島町の2町合同)と大洲市は2024年に、丸亀市は2026年にシルバーアワード(Global Sustainable Tourism Council (GSTC) 基準の84項目のうち70%以上を達成)を受賞するなど、日本で7つのシルバーアワード受賞地域のうち3つが四国と着実に取り組み成果が出てきている。
これらの市町村やDMOを含めて、機構を事務局とする四国「持続可能な観光」推進ネットワークを設立し、現在25地域が加盟している。このネットワークでは、情報共有や意見交換、連携プロモーション、普及・啓発活動(セミナー、ワークショップ、研修)を行っている。
ただ、正直なところ、持続可能な観光に対する意識が高い自治体は必ずしも多くなく、面倒だと思っている所もある。持続可能な観光への取り組みは、役所横断的に行う必要があるので、ボトムアップではなかなか難しく、首長のトップダウンが大事だと思い、首長に会いに行っている。
一方で、自治体間にはライバル意識もあり、ある自治体が認証をとり、メディアに取り上げられたりすると、近隣の自治体が自分たちも取り組んでみようという流れになることもあるので、そういう自治体にも背中を押しに行っている。
機構自体はGSTCの認証を受けるには区域が広すぎるが、2021年7月に、観光庁の日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)に取り組むDMOとしてのロゴマーク使用承諾を広域連携DMOとして初めて受けた。(筆者注:広域連携DMOとしては、せとうち観光推進機構も2024年6月に承諾を受けている。)JSTS-Dのロゴマーク使用承諾は一定の条件を満たせば得られるものであり、自治体やDMOには、Green Destinations等による国際認証を受けることを奨励している。機構としては認証のための伴走支援を直接行っているわけではないが、(一社)サステナビリティ・コーディネーター協会(JaSCA)等を紹介するとともに、必要書類の英訳は無償で行っている。また、GSTC基準を奨励する以上、機構もGSTCの知識をきちんと持っている必要があることから、職員全員がGSTC研修及び研修後の試験を受け、Professional Certificateを取得している。
(取り組みに期待する効果)
持続可能な観光に取り組み、第三者機関の評価を受け、国際認証をとることで、地域におけるブランド力が高まり、特に持続可能な観光への関心の高い欧州や富裕層FITへのPRになると考えている。Green Destinations Top 100ではストーリーが重視されるが、欧州の旅行者は「なぜその地域にそれが生まれたのか」「それがどう現在につながっているのか」「その伝統はどのように継承されているのか」といったストーリーや理由を求めるためである。また、クルーズ客船がGSTC取組地域を寄港地として優先的に選択し始めており、クルーズ船の寄港回数の増加にも効果があると考えている。さらに、2022年からの新学習指導要領の改訂で、高等学校がSDGsの実現やSociety5.0の到来に伴う諸課題に対応する「学際領域学科」や地域社会が抱える諸課題に対応する「地域社会学科」を設置できるようになったことを受け、これらをテーマとする修学旅行の増加が顕著になっており、SDGsに取り組む地域や関連プログラムが修学旅行の誘致に効果を現してきている。今後はこうした傾向がアジアからの修学旅行にも拡大し、四国が選ばれる要因の一つになることを期待している。実際に台湾サステナブルツーリズム協会が四国を訪れ、視察を行ったこともある。
自治体に説明に行くと、「認証をとったら旅行者は増えるのか」と聞かれるが、必ずしも短期間にそういう効果が出るものでもなく、認証取得自体が目的でもない。認証は地域をブランディングしていくための手段の一つであり、認証をとった後どう頑張って、それを活かすかは自分たちで考える必要がある。
一方で、持続可能な観光に取り組み、国際認証をとることによって、地域や住民の意識が変わり、誇りとプライドが醸成される効果は大きい。例えば、小豆島町ではGreen Destinationsのシルバーアワード取得をきっかけに、地元の高校生が自分たちでできることは何かを考え、地元のお祭りのごみ捨て方法を変える提案をした。4か所にあったゴミ箱を1か所に集め、完全に分別した上で捨ててもらうようにしたところ、分別がきちんと行われたほか、ごみの量自体も4分の1に減ったという。また、自治体職員の意識も自然に変わってきて、観光に直接関係のない会議などでも、「〇〇という施策は持続可能と言えるのか」といった発言が出るようになったところもあると聞いている。
Top 100の選出など持続可能な観光に関するストーリーの部分については取り組みが進んでいるが、個々の事業者や宿泊施設の取り組みについては、まだまだこれからという感じである。持続可能な取り組みにより、不便になったり(例えば、部屋に歯ブラシを置かない)すると、どうしても日本人の評価は下がってしまう。欧米の旅行者は、もともと部屋に歯ブラシがないのが普通であり、環境保護に対する意識や理解が高いので、日本人と違って評価が上がることもある。また、欧米のメディアや旅行会社を招請すると、ビニール袋やペットボトルが多すぎるということはよく言われる。最近は、日本でも連泊の場合はシーツ交換をしないとか、部屋の備品はアメニティバーにして必要な分だけ持っていってもらうなどのことは一般的になってきたが、メイン顧客が欧米人でなければ、日本人の評価を優先せざるを得ないので、こうした取り組みへの優先度はどうしても低くなってしまう。日本人自体が持続可能な観光に対する意識を上げていく必要があるのではないかと思う。
(持続可能な観光を四国のブランドに)
これまでの取り組みの結果、Green Destinationsが認定する「世界の持続可能な観光地100選」に選出された地域が2021年の1から2025年には累計12になった。また、観光庁からJSTS-Dのロゴマーク使用の承諾を受けた地域が2021年の4から2025年には22に増え、四国での取り組みは着実に広がっている。機構では、2026年3月に、四国経済連合会、四国アライアンスとともに、四国の観光ビジョン(2026年~2030年度)を策定したが、重点推進項目の一つに、地域固有の自然・文化を紡ぐサステナブルツーリズムの推進を掲げており、それを「サステナブルアイランド四国」としてブランディングに活かしたいと考えている。国際認証を取得した地域が各県10以上、合計40以上になれば、四国としてサステナブルアイランドと言えるのではないかと思っている。認証を取得した地域は自走していけると見ており、機構としては、取得済の地域との連携を深めつつ、新たに取り組む地域を増やしていきたい。
(参考資料)
・四国における「Green Destinations Top 100」の選出状況
| 年 | 地域 | カテゴリー | 内容 |
| 2021 | 香川県 小豆島町 | 文化と コミュニティ | 中山千枚田の荒廃と伝統の途絶危機を官民連携で克服し、観光資源として再生 |
| 2022 | 香川県 小豆島町 | コミュニティの 活性化 | 輸入自由化で激減したオリーブを、特区制度活用や公園整備で栽培・観光を再興 |
| 愛媛県 大洲市 | 文化と伝統 | 空き家危機を官民連携の観光戦略で克服、分散型ホテルなどで歴史的な城下町を再生 | |
| 2023 | 徳島県 三好市 | 文化と伝統 | 祖谷のかずら橋の保存において、課題である資材不足と技術継承を官民学連携で対応 |
| 香川県 丸亀市 | 文化と伝統 | 丸亀うちわの伝統を後継者育成講座とマイスター制度で継承し、観光客や移住者の獲得に尽力 | |
| 愛媛県 大洲市 | コミュニティの 活性化 | 古民家再生事業における住民との連携不足を講座と対話で解消し、地域参加型コミュニティを形成 | |
| 2025 | 香川県 丸亀市 | ビジネスと マーケティング | 持続可能な観光教育のモデルとなる循環型経済イニシアティブで、地元企業、学生、行政が結集し観光を活性化 |
| 香川県 三豊市 | 観光地管理に おける解決策 | 父母ヶ浜における住民の清掃活動とSNSでの発信で観光地として再生、環境保全と経済を両立 | |
| 高知県 黒潮町 | コミュニティの 活性化 | 地震と津波の脅威による経済の停滞と過疎化を受けて、町、企業、住民が一体となって防災対策や教育を推進 |
出所:四国ツーリズム創造機構
・四国における持続可能な観光の取り組み事例とプログラム
機構では、主に教育旅行向けの持続可能な観光の取り組み事例やプログラムをまとめて、ウェブサイト(日本語、英語)やパンフレットで情報発信している。その中から各県1つずつを紹介する。
- 徳島県美馬市等:教育旅行 そらの郷 山里物語(民泊体験)
大歩危・祖谷や剣山・吉野川に代表される自然、歴史文化、伝説や伝承、独自の食文化、伝統芸能に彩られた観光地域であるとともに、素朴で温かみのある古き良き暮らしが息づいている。そらの郷の教育民泊家庭は受入れ20年以上の歴史があり、生徒たちは家族の一員として迎えられ、茶摘みや野菜の収穫など、サステナブルな自給的農業を協働したり、田舎料理を共同調理したりすることにより、厳しさを豊かさに変える暮らしを学ぶ。
- 香川県高松市:うどんをまるごと循環させる! 廃棄うどんを「資源」に
うどんで有名な香川県であるが、「コシが命なので時間を置いたうどんは出さない」「工場での製造工程で切れ端などの部分が出る」などの理由から廃棄うどんの量も多い。日々捨てられているうどんを生ごみとして廃棄処分するのではなく、リサイクルすることで、廃棄物を減らし、持続可能な循環型社会のシステム・モデルを構築する仕組みを学ぶ。
- 愛媛県大洲市:OZU STORIES 大洲城下町再生の物語
後世に価値ある地域文化を残し、町のアイデンティティを守るため、古き良き町並みや歴史的建造物の再生と活用を軸に取り組んだ、大洲市のまちづくりの敬意や活動内容を知り、大洲の今を体験する。ツアー収益の5%を地域内のまちづくりを実施する団体や取組に寄付する。
- 高知県黒潮町:防災学習プログラム -命を守るー
34mという日本一の津波の襲われることが想定された黒潮町。津波タワーへの避難訓練と同時に備蓄品の点検や追加など、日頃から防災への高い意識を持つ人々の取り組み等について学習し、事後学習では自分が暮らす地域に潜んだ災害リスクについて自主的に学ぶきっかけができ、命を守る行動の大切さを学ぶことができるプログラム。

出所:(一社)四国ツーリズム創造機構