田川会長が講演しました
2026年3月6日(金)、広島市で開催された4DMO連携会議において、田川会長が講演を行いました。
※4DMO連携会議:西日本エリアにある関西、中国及び四国の広域連携DMO(せとうち観光推進機構、山陰インバウンド機構、四国ツーリズム創造機構、関西観光本部)の4つのDMOが共同し、当該地域へのインバウンド誘客、観光消費額の拡大並びに持続可能な観光の推進を目指すため、2023年5月に包括連携協定を締結し、定期的にGreater WEST JAPAN連携会議を開催し、事業推進の協議を行っている。
「サステナブルツーリズムの推進と日本サステナブルツーリズムイニシアティブの活動について」
観光が日本、特に地方創生において重要な役割を果たすとして、2003年に当時の小泉総理が観光立国宣言を行い、ビジットジャパンキャンペーンが始まって今年で23年、政府が最初の観光立国推進基本計画が閣議決定して19年になります。この間、東日本大震災、新型コロナという試練がありながらも、日本の各地域で観光振興の取り組みが進み、着実に成果もあがっていると思います。昨年訪日インバウンドが4000万人を超えたというのは、我が国の観光にとって一つの大きなマイルストーンになりました。
一方、人々の価値観の多様化、テクノロジーの進化、気候変動などが、旅のあり方にも影響を与え、旅に求められるものも変わってきました。より深く本質的な体験を求める旅行者が増えています。また、素晴らしい旅の体験を将来世代にも責任を持って引き継いでいくため、自然や文化の観光資源を守り、観光地域の住民生活を豊かにしていく観光のあり方が求められており、サステナブルツーリズムの重要性が叫ばれています。
国連世界観光機関(UN Tourism)によれば、サステナブルツーリズム(日本語では「持続可能な観光」と言いますが、「旅行者、観光関連産業、自然環境、地域社会の需要を満たしつつ、経済面、社会面、環境面の影響も十分考慮に入れた観光」と定義されています。観光がもたらすマイナスの影響を最小限に抑えつつ、プラスの影響を最大化することを目指す考え方です。
観光は言うまでもなく旅行者に対して高付加価値な体験やサービスを提供することが何よりも重要です。すなわち「旅のABCDE: AffordableのA(手ごろに)、BeautifulのB(美しいものを見て、買って)、ComfortableのC(快適にくつろいで)、DeliciousのD(美味しいものを飲んだり・食べたり)、EnjoyableのE(そして楽しむ)の視点を大切に、価値ある旅行・観光体験を提供していくことが大前提です。
その上で、環境の面でのサステナビリティとしては、自然環境の保護、生態系の保全、生物多様性の維持といった自然環境に関するものだけでなく、プラスチックや廃棄物の削減、資源の有効活用、再生可能エネルギーの導入、CO2削減など気候変動への対応といった課題も含まれます。
具体的には、サンゴ礁の破壊、ビーチリゾートの水質汚染、山岳登山者によるごみ廃棄などの問題への対応が急務となっています。また、温室効果ガスによる気温上昇、異常気象の問題は悪化しており、世界のCO2排出の7~8%程度を占めるといわれている観光セクターにおいても、再生可能エネルギーの導入、使い捨てPETボトル利用の縮減、サステナブルな交通手段の利用促進などが求められています。
社会的側面では、バリアフリーなど誰もが楽しめる観光の推進、観光と住民生活の共存、地域の有形無形の伝統文化の尊重と継承、公正な取引や障害者や紛争地域難等の社会的脆弱層支援などが挙げられます。サステナブルツーリズムの実現には、地域住民の理解と協力が不可欠であり、住民の間でも、観光客との共存や交流の機会、地域資源の保全に対する意識が高まっています。また観光産業は地域があってこそ成立しているものであることを認識し、地域社会の課題(チャレンジ)を把握し、その解決策への貢献や地域への還元に資する活動を行うことも重要です。
経済的サステナビリティとしては、地域経済への貢献や雇用創出、地域産品の活用、観光収入の地域内循環、観光と地域産業の連携、市場や観光シーズンの多様化や地域分散といった点が重要です。
最近の日本では、一部観光地での混雑、旅行者のマナー違反、住民生活へのマイナスの影響といった観点から、特に社会的な意味での持続可能性が重視されているようにも感じられますが、自然保護やCO2削減などの環境と観光の関係を考慮した取組を旅行者と事業者が同じ目標を共有しながら進めていくことも必要なことです。また、そもそも観光が経済的にヒト・モノ・カネ・チエを回転させながら事業を継続できることもサステナブルツーリズムの条件であることを忘れてはなりません。
サステナブルツーリズムの動きの中で、量から質へ、人数から消費額へ、利用から管理へという流れは、もはや既定路線となったと言ってよく、体験の質や意味を重視する観光を目指す動きが活発になっています。また、Z世代や高付加価値旅行者を中心に、持続可能性に対する意識は高まっており、今後日本が更に観光立国を進める上で、持続可能性への取り組みは必須であると言えます。更には、単にサステナブル・持続可能というだけでなく、観光によって地域の自然や社会をよりよくするという再生の視点も注目されており、地域と旅行者が手を取り合って、よりよい観光をつくっていく時代が来ています。
地域が自らの地域の100年後を見据えて、どういう地域にしたいのか、それを達成するために、観光をどう活用していくのか。こうしたことを地域と旅行者が議論・共有していくことが重要だと思います。
ここでサステナブルツーリズムの歴史を振り返ってみたいと思います。
サステナビリティという考え方は、今から半世紀も前の1970年代に、環境問題が国際的な課題となり、経済成長と環境保護の両立の重要性が認識されたことに始まります。1987年の「Our Common Future」という報告書で、「持続可能な開発(Sustainable Development)」という概念が提唱され、「将来の世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズを満たす開発」と定義され、観光分野においても環境や社会に配慮した開発が基本的な考え方となりました。
1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)ではアジェンダ21が採択され、観光分野においてもサステナビリティへの原則を組み込むことの重要性が強調され、UN Tourismにおいて、持続可能な開発に関するガイドラインの開発や普及活動が本格化し、エコツーリズム、community based tourismなどの、環境や地域社会により配慮した観光形態が注目され始めました。
さらに気候変動問題が深刻化するにつれて、観光が排出する温室効果ガスへの対策や、気候変動の影響を受ける観光地での適応策が重要な課題として浮上しました。
日本では、2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標、いわゆるSDGsにより、サステナビリティに関する認識が高まってきたのではないでしょうか。観光は裾野が広い産業であり、UN Tourismでは、観光はSDGsの17の目標のすべてに貢献することができるとしています。
こうした中、国際的にはGSTC、Green Destinationsなどがサステナブルツーリズムに関する基準の策定や認証を行っており、観光関連企業や旅行者が取引先や旅行商品、目的地を選択する際の目安となっています。観光庁では、それらも参考にしながら、2020年に「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定したのは皆さんご承知のとおりです。
一方で、2010年代半ばごろから、観光客の増加・集中が一部の観光地で環境破壊や地域住民の生活への悪影響、文化の変容などを引き起こすいわゆるオーバーツーリズム問題が世界的に顕在化しています。観光客数の増加と持続可能性の両立は依然として大きな課題であり、観光客の分散、地域住民との共存策などが模索されています。
日本では、バルセロナ、ベネチア、アムステルダムといった都市ほどの深刻な問題や住民の観光反対運動は生じていないと思いますが、そうした問題が生じないように予防的施策、管理施策をとっていくことが重要です。
こうした状況の中、サステナブルツーリズムを追求するためには、観光地及び観光事業者側の努力だけではなく、旅行者自身の意識や行動も重要なことから、UN Tourismが提唱している「責任ある旅行者(レスポンシブル・ツーリスト)」や京都から始まり日本観光振興協会が支援している「ツーリストシップ」という概念も広まってきています。さらには、観光が単に地域社会や環境を悪化させないことにとどまるのではなく、100年後も見据えてよりよい社会や環境をつくる手段と考えるという再生型観光(Regenerative Tourism)という概念も出てきています。そのためには、地域の魅力やルール、観光のあり方をOne Voiceで旅行者に伝えつつ、質の高い観光体験を提供することが必要です。
ブッキングドットコムは毎年サステナブルツーリズムに関する旅行者の意識調査の結果を発表していますが、それによると日本人のサステナブルツーリズムに関する意識は、世界に比べるとまだ少し低いようです。一方、これからの旅行者の主体となる世界のミレニアル世代やZ世代、また日本でも誘客を進めようとしているいわゆる富裕層においては、持続可能性は差別化要因というより当然の期待値になっており、ライフスタイルや価値観を支える考え方になってきています。したがって、観光地、観光事業者は環境や経済の循環型モデル、ネットゼロ戦略、地域との共生モデルを踏まえた取り組みを進めることが必須であると言えます。
日本においても、サステナブルツーリズムへの取り組みは進んできている一方で、各ステークホルダー間においても意識のばらつきもあるように思います。特に多くの中小の事業者にとっては、サステナブルツーリズムと言われても、ハードルが高そう、人材や知識や資金が不足している、何をやっていいのかわからない、顧客から明確に求められているようには思えない、といった理由で、必ずしも全国で取り組みが進んでいるとは言えないのではないでしょうか。
サステナブルツーリズムには、地域の官民の観光関係者が、住民や旅行者の理解や協力を得ながら、主体的に取り組むことが必要です。そのためには、サステナブルツーリズムに関する教育や啓発活動を強化し、旅行者や地域住民の意識向上を図る必要があります。また、デジタル技術も活用し、旅行者の分散化、混雑緩和、環境負荷のモニタリングや低減などを実現していく必要があります。
日本サステナブルツーリズムイニシアティブは、セミナーやコンサルティングなどを通じて、UN Tourism(国連世界観光機関)やWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)が推奨するグローバルな視点を持って観光地、観光事業者、旅行者におけるサステナブルツーリズムの考え方の普及に努めるとともに、具体的な取り組みを一歩ずつ進めるためのアドバイスや伴走支援をしていきたいと考えています。サステナブルツーリズムは決して遠くにあって思うものではなく、小さなことでもできる身近な取り組みが数多くあるのです。
サステナブルツーリズムへの取り組みは持続可能な地域社会づくりにつながる取り組みであり、そうした取り組みを意識・評価する旅行者が今後さらに増えてくることは間違いありません。今後、持続可能性そのものは観光コンテンツ化していくことも重要な取り組みです。JSTiでは各地域の観光資源の保護保全や地域社会の課題解決に貢献するツアープログラムに皆さんと一緒に光を当て、持続可能性への取り組み自体が直接経済的収益を生み出していくことも一緒に進めていきたいと考えます。また、後回しにされがちではありますが、気候変動や二酸化炭素排出削減、使い捨てプラスチック等の観光地におけるゴミ問題への取り組みも、観光振興の基本的な考え方として、意識的に取り組むことが必要です。
さて、本日のこの会合には、関西、せとうち、山陰、四国の4つの広域DMOとその関係者が集まっておられます。観光振興は地域創生の大きな柱となっており、日本人の国内観光振興に加え、特に訪日インバウンド誘致に大きな期待があります。訪日インバウンドは昨年4000万人を超え、過去最高を記録しましたが、外国人延べ宿泊者数の約7割が三大都市圏に集中しており、地方誘客・地方分散のさらなる促進が必要です。また、個々の自治体や事業者による取り組みのみならず、地域一体となった観光地域づくり、地域内の周遊促進の観点から、広域DMOの果たす役割が大きく期待されていると思います。
旅行者は自治体の境界を意識せず、広範囲を周遊します。広域DMOは、こうした周遊ルートを考慮し、地域に点在する資源をテーマなどに応じて結びつけ、新たな価値を創造できます。また、人材不足、プロモーション費用の確保、データの収集・分析能力の不足など、多くの地域が抱える共通の課題に対し、広域DMOは、地域をまとめる組織として、効果的・効率的に取り組むことが期待されています。サステナブルツーリズムについても、地域全体で取り組む機運を醸成し、啓発活動や支援活動を進めて頂きたいと思います。
昨年10月に本日お集りの4つのDMOを含む全国10の広域DMOが連名で、せとうち観光推進機構の真鍋会長、四国ツーリズム創造機構の半井代表理事に代表を務めていただき、観光庁長官あてに「地方誘客実現に向けて広域連携DMOへの支援拡大に関する要望書」を提出いただきました。この10のDMOのうち、山陰インバウンド機構と関東広域観光機構の会長は、私が務めております。
その中で、安定的かつ恒常的な財政支援制度の導入、人的資源への財政支援の強化、国のデータ整備の一層の充実と広域DMP整備への支援を要望いたしました。それを取り入れる形で来年度観光庁予算案に「広域DMO総合支援事業20億円」が計上されたことは大変喜ばしいことと思います。
同事業では、「DMOの体制整備・機能強化事業」として、広域DMOが行う人材確保や育成、業務DX等に資する取り組みにかかる費用の支援が挙げられています。そして、「広域連携観光促進事業」として、広域連携DMOが策定する広域連携観光戦略に基づく、調査・戦略策定、滞在コンテンツの企画開発、受入環境整備、旅行商品流通環境整備に資する取り組みを支援することとされています。
是非そうした取り組みの中に、サステナブルツーリズムに資する取り組みも含めて頂きたいと思います。広域DMOが地域におけるサステナブルツーリズム推進の旗振り役となっていただけることは、大きな力になります。広域DMOから、都道府県、市町村のDMO、さらに個々の事業者へとその重要性の理解が広まり、広域DMOの奨励・支援と個々の取り組みがあいまって、日本全体が持続可能な観光地となるという流れを作ることができれば素晴らしいと思います。日本サステナブルツーリズムイニシアティブとしても、そうした広域DMOの取り組み、地域の取り組み、事業者の取り組みと連携していきたいと考えています。
さて、観光庁においては現在、「観光立国推進基本計画」の改定作業が進んでおり、まもなく発表されることと思います。現在の計画では、「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つをキーワードに、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組むこととされています。
現行計画では、持続可能な観光地づくりの体制整備に関する目標として、持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数を令和7年度までに100地域とすることが挙げられましたが、すでに118地域と目標を達成しています。推進地域においては、その取り組みが、旅行者の魅力となっているかを継続的にモニタリングし、持続可能な付加価値創出となっているかを検証する必要があります。
現在議論が進められている新しい観光立国推進基本計画の素案によれば、施策の軸として、次の5つが挙げられています。すなわち、観光の持続的な発展、消費額拡大、地方誘客促進、観光と交通・まちづくりとの連携強化、新技術の活用・本格展開です。観光の持続的な発展が最初にうたわれています。
素案では、さらに3つの方針が挙げられていますが、その1つめが「インバウンドの受入れと住民生活の質の確保との両立」です。その下に「地域一体となった持続可能な観光地域づくりの推進」の項目が挙げられ、地域住民と協業した観光振興の推進、「日本版持続可能な観光ガイドライン」(JSTS-D)に基づく取組の推進、地球環境に配慮した観光の推進といった施策が位置づけられています。また、新しい計画素案においては、観光客の受け入れと住民生活の質の確保との両立に取り組む地域数を100とすることが目標とされています。
こうした持続可能な観光に関する取り組みを地方自治体や地域DMOに任せるのではなく、奨励しリードすることも、広域DMOの役割ではないでしょうか。そうした活動に日本サステナブルツーリズムイニシアティブも連携していきたいと考えています。
2025年の訪日インバウンドは4000万人を超えました。訪日客数は全方面から増えていますが、昨年の特徴は、欧米を中心とするロングホールの伸びが著しいところです。世界の国際観光旅客数についても、UN Tourismによれば、2025年は15億人を超え、コロナ前を上回りました。2026年も3~4%の伸びが予想されており、世界の観光需要は引き続き旺盛です。
訪日インバウンドもこうした状況の下、市場による違いや、為替の動向にもよりますが、JTBの予想では、人数としては前年並み、訪日消費額は前年を上回るとされています。一方、2030年6000万人、15兆円という目標や、その先を見据えると、日本は国際観光における厳しい競争を勝ち抜いていかなければなりません。将来に向けても、今から着実に、地域が主体となって、国際競争力のあるサステナブルな観光地域づくりの取り組みを進めていく必要があります。
国際観光旅客税の引き上げや、各地で導入が進む宿泊税も活用して、持続可能な観光地域づくりへの取り組みが更に推進されることを期待します。その中で、各広域DMOも地域の先頭に立っていただきたいと思います。せとうちDMOには日本サステナブルツーリズムイニシアティブの会員になっていただいていますが、関西、山陰、四国のDMOにもぜひ参加いただき、我々JSTiと実践的なサステナブルツーリズムの取り組みを一緒に進めていただければ幸いです。
サステナブルツーリズムは、単なるオーバーツーリズム防止や環境保護に留まらず、地域社会全体、そして将来世代の幸福までを視野に入れた、多角的・長期的なアプローチが求められる概念です。地球規模の課題が複雑化する中で、その重要性はますます高まっており、すべてのステークホルダーが連携し、より良い観光の未来を築いていくための努力が必要です。
日本ではサステナビリティ全般に対する意識あるいは実践はまだ十分高いレベルにあるとは言えない状況にあると思いますが、観光はそれに気づくきっかけ、入口の役割も果たせるはずです。日本の観光を、地域に喜びを与えるもの、世界に選ばれるものとするために、皆さんとともに取り組みを進めていきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。